約 5,047,615 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/856.html
戦うことを忘れた武装神姫・各種設定-3 久遠ん家周辺のおでかけスポットと楽しい仲間たち ムサコ神姫センター バイクショップ「ドラマティックランナー」 T市の居酒屋 H市のショットバー ムサコ神姫センター 第7話~第20話・第24話 に登場 ムサコの店長 ムサコ神姫センター(M町のセンター)の店長。 実は相当な人脈があるっぽい。 前職は一切語らない。。。 趣味人で、趣味道具だけで倉庫ひとつを借りている。愛車はミツオカ。 アスタ(Asta)(アーンヴァル) 得意:実演販売 苦手:在庫検索 属性:マスコット コリン(Colin)(ヴァッフェバニー) 得意:商品解説 苦手:店内掃除 属性:マスコット ムサコ神姫センター(M町のセンター) 久遠がよく行くセンターのひとつ。補修パーツが充実している模様。 かつては店長以下数名を除き、店員の多くがバイトであるため、武装神姫に 対する知識を持たない者が多かった・・・と久遠の談。 ある事件(対戦)をきっかけに、現在は店員を始めとした経営体制が大幅に 改善され、近隣でも大変に人気のあるセンターとなっている。 元々設備は充実しており、工具貸し出し付きのレンタル作業台があるほか、 バトルフィールドの筐体は常時最新型が設置されている。 現在設置されている筐体は、立体フィールドが実際に構築されるもの(特殊 な微小ブロックの集合体により構成され、建物や植物、家財道具のみならず、 自然環境等を含めたどんな環境も再現できる。元々は警察の鑑識関連の技術 だったと言われている。)で、より迫力のあるバトルシーンが展開される、 最新の機種・CMU-300系、CMU-301(小型)と、CMU-381型(特大)と なっている。 店舗構成は、1階が貸店舗(普通のコンビニ)とセンターエントランス、2階 がセンターの店舗兼受付、3階がCMU-381型設置フロア、4階にCMU-301型 およびレンタル作業台スペース、5階がHT-NEK直営アンテナショップ、6階 に喫茶スペースと事務所、7階が会議室、倉庫・・・となっている。 バイクショップ「ドラマティックランナー」 第30話・第33話・第34話・第34.5話に登場 メカニックのひと(浅川さん) ひとりでこの店を切り盛りしている。 元レーサー、今メカニック。 時折草レースに出場。 ドゥルシラのマスター。 久遠の「バイク」の師匠。 小型電動原付から、大型ヴィンテージまで何でも取り扱うことが出来る、 近隣でも名の知れた凄腕メカニック。 ドゥルシラ(Drusilla)(フォートブラッグ) 得意:バイク修理 苦手:バイク販売 属性:工兵さん バイク整備に特化させるべく、装備の大幅変更(工具・テスター搭載)に加え、 装備(プロテクター類)や素体は全て耐ガソリンコーティングが施されている。 販売は下手。 武装・素体の改造その他は、ちっちゃいもの研にて施工された。 同じメカ好きのシンメイは良い話し相手。 浅川のことを「ドクター」と呼ぶ。 バイクショップ「ドラマティックランナー」(バイク屋) 久遠神姫を始める前から世話になっているバイク屋。 久遠の保有するバイクはすべてここ出身。 現在、店員はメカニックの浅川のみ のため、いろいろと大変らしい。店員を雇う代わりに、細かい作業や販売を担当 させるべく、武装神姫・フォートブラッグのドゥルシラを迎えた。 久遠と彼のバイク仲間の溜まり場でもある。 T市の居酒屋 第7話・第8話・第27話 に登場 個人経営の小さな居酒屋。 夜な夜な、神姫オーナーが集う居酒屋として、その 手の間では結構有名。 「土地柄、じゃないの?」とは店の主人の談。 店の主人は、神姫のことはあまり詳しくないが従業員の一人が神姫バトルのプロ を目指しているとかいないとか。 近隣でも指折りの日本酒と焼酎の品揃えを誇り、久遠が「急に日本酒が呑みたい 症候群」を発症した際にはよく行っているらしい。 H市のショットバー 第25話・第26話・第31話・第32話 に登場 マスター このバーのマスター。 かつては神姫の開発に携わっていたらしいが、詳細を あまり語りたがらない。 趣味が広いようで、ものすごい物知り。 あずさのマスター。 妻子持ちで、円満家庭の良きお父さんでもある。 あずさ(type91型) 得意:いろいろ 苦手:特になし 属性:バーのママさん 武装神姫開発におけるいわば「踏み台」となった、「type-91」と型番だけで 呼ばれる神姫。type-91は、あくまで量産手法の研究目的であり、ごく少数が 試験生産されただけで試験完了後にはほとんどが解体されたといわれている。 あずさは現存・稼動できる貴重なtype-91型でもある。 H市のショットバー 久遠がお気に入りにしているショットバー。 食べ物もいろいろと名物があるようで、それ目当てに来る客も少なくないとか。 いつでも美味しいお酒がお手ごろな値段で呑める隠れ家のような店。 ・Special Thanks to "風の人"さん・ <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1084.html
星に、願いを──あるいは七夕の夜 本日最後の客も帰り、どっと疲れが沸く。私・槇野晶の一日が終了、 となる所なのだが……今日はこれからが本番だ。何故なら七月七日。 そう、七夕である。昼の内に、我が“妹”たる三人の神姫には準備を お願いしてあるがどうなっているだろうか。居住スペースに向かう。 「ふぅ。待たせたなお前達、準備は……おお。しっかり出来ているな」 「がんばりましたの~♪飾り付けもばっちり完成してますのっ……♪」 「……千羽鶴まで。有無、無駄に豪勢だな……再生紙故問題はないが」 「竹じゃなくて中古の釣竿なのは勘弁してほしいんだよ、マイスター」 「しょうがないですよ。環境問題もありますし、この辺から……ね?」 テーブルの上にあったのは、リールの付いていない古い釣竿1セットに 釣り糸に結ばれた紐。更にそこに繋がった無数の短冊や折り紙などだ。 ……更に、まだ何も書かれていない短冊が、別個に一枚。隣にはペン。 ふむ、どうも私に『願い事を書け』という事らしいな。可愛い娘らだ。 「後は私だけ、という事だな……と、見るんじゃないぞ?まだ内緒だ」 「はい。そのかわりあたし達のも、屋上に出るまでは内緒ですからね」 「……まあ、仕方ないか。と言う事は、お前達は既に書いたのだな?」 「この通り、パンチで縛る穴も開けてあるんだよ……見せないけどね」 アルマが意地悪そうに微笑むと、クララとロッテが小さく折り畳まれた 紙片を取り出してきた。小さく……と言っても、神姫である彼女らには 座布団サイズだがな。そして、皆が互いを気にしている事から察するに 多分彼女ら自身も、姉妹が書いた願い事はまだ知らんのだろう。有無。 「皆、どんな願い事書いたんですの~?ちょっと気になりますのっ」 「まあそれは今から分かるだろう。さてと、私も書けた……往くぞ」 「分かったんだよ。じゃあ肩に乗って……マイスター、物をお願い」 「分かっている、ほら。私の肩に乗ってくれ。ビルの屋上に出るぞ」 「は、はいっ!んしょ……っと、手が自由にならないと不安定です」 私は、釣竿と飾りに己の短冊を。三姉妹は、折り畳んだ自分達の短冊を。 ついでにエレベーターのマスターキーを棚から持ちだして、店外に出る。 そして近くにあるドアを潜って、コンソールの下にある鍵穴を操作する。 普段は勝手に屋上へ出られない様、“Rボタン”をロックしてあるのだ。 だがこれにより、集光タワーやアンテナの乱立する会館の屋上に行ける。 「随分と久しぶりだな、屋上に出るのは……あまり綺麗とは思えぬが」 「それでも、使っていないフロアへと忍び込むよりは余程いいんだよ」 「えっと……鳥の巣とかは作れる場所がないんでしたよね?構造的に」 「そうですの、アルマお姉ちゃん♪出口付近はちょっとアレですけど」 雨水などが浸水しない様に、エレベーターが設置してある構造物付近は 階段にして数段分高く設計してある。“鳥の落とし物”があるならば、 その周りにしかないだろう、という話だ。食事中の諸兄には詫びよう。 む、着いた様だ。ドアが開き、眼前に鉄格子付きの分厚い扉が現れる。 「よし、開くぞ。ビル風に吹き飛ばされない様、しっかり掴まれ!」 「はいですの……う、うわわっ!ちょっと風が強すぎますの~!?」 「ボクはポケットだから、実害無いんだよ。アルマお姉ちゃんは?」 「う、うぐ。どうにか……踏ん張ってますけど、きついですね……」 そう言えばそうだ。小柄とは言え人間の私には十分耐えられる風でも、 圧を受ける面積が小さいとは言えど、軽い神姫にこの突風は堪えよう。 慌てて両肩のロッテとアルマを、クララのいる胸ポケットに押し込む。 万一転げ落ちてしまえば、どんな物理的ダメージを被るか計り知れん。 「すまんな。手伝い用の飛行ユニットでも持ってくればよかったか」 「気にしなくていいんだよ、マイスター。その心だけで嬉しいもん」 「それに、皆で肌を寄せ合って初夏の夜を過ごすのもいいですの♪」 「ちょ、な……何言ってるんですかロッテちゃんっ!?もうっ……」 「変な事を言うなッ!さ、そこのポールに竿を立てようではないか」 そうして騒ぎつつも、私は釣り竿を伸ばして屋上の一角に用意している ポールに突き刺す。ちなみに隣では、他の入居者向けに用意した稲荷が 小さな祠を風に晒している。これも掃除してやらんとバチが当たるな。 後で、ふき掃除でもしてやるとするか……ともあれ次は、飾り付けだ。 「よし。ではまずこっちの飾りを、しっかりと結びつけて……OKだ」 「篠の葉さらさら、野際……じゃなくてビル際に揺れる~、ですの♪」 「いっぱい紙製の飾りを作った甲斐がありますね、クララちゃんっ!」 「情緒があるのかは分からないけど、気分の問題なら上出来なんだよ」 「さて、後は皆の願い事を書いた短冊か……まずは、私から出そうか」 そして私は、別のポケットに忍ばせていた短冊を余剰スペースに付ける。 その途端、神姫たる三姉妹達がくすくすと笑い出す。その事情を知るのに さほど時間は掛からなかった。全く、恥ずかしいが嬉しい限りだな……。 「ん?……さ、次はクララのだな。貸してくれ……なるほど、そうか」 「そう言う事なんだよ、マイスター。次はロッテお姉ちゃんの分だね」 「ふふっ……わたしのも見て驚いてくださいですの、マイスターッ♪」 「これは……全くお前達と来たら。アルマもひょっとしてそうだな?」 「は、はいっ!……みんな同じだなんて、滑稽だけど嬉しいですね♪」 ──────『みんな、ずっといっしょにいられますように』。 メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/938.html
久方ぶりの羽休め──あるいは啓示 えー……その、なんだ。世の中は、昨日までゴールデンウィークか? その様な気楽な休日を謳歌していたそうだな。だが、私・槇野晶には そんな物は無関係だッ!……否、別の意味では関係あったのだがな。 矛盾の答えは、目の前にあるモニターに全てが映っている訳で……。 ちなみに今日は定休日だが、“これ”を処理する為に朝から缶詰だ。 「うーむむむ……これが、昨日の伝票の最後で……結果はこうか」 「あの……マイスター、お茶でも如何です?麦茶いれたんですよ」 「む。すまんなアルマ……有無、キンキンに冷えていて旨いぞ!」 「あ、ありがとうございますっ!それで……えと、どうでした?」 「売り上げか……流石に祝日を全て潰しただけあって、多少はな」 そう。あくまでもこのMMSショップ“ALCemist”は、客商売である。 諸処のイベントも多く開催されるこの時期、まさに書き入れ時なのだ。 如何に拘りが強かろうと、元手が無くては何も動かぬ。それが経営だ。 おまけに、ロッテにクララ……そして眼前のアルマと暮らしだして以来 出費は減るはずもない。この稼ぎ時を逃す訳には、行かなかったのだ。 それを後悔はせぬし、身を粉にした甲斐あってか売り上げはまずまず。 「しかし、お前達を私に付き合わせた穴埋めはせねばならんなぁ……」 「そんないいんですよ、HVIFでのお手伝い楽しかったですからッ」 「そう言ってもらえると嬉しいが、私としては……む、そうだっ!!」 「きゃっ!?……ど、どうしたんですかマイスター突然立ち上がって」 「アルマ。至急ロッテとクララを呼んでくるのだ、アレを持ってな!」 突如発せられた私の命に一瞬戸惑うアルマだったが、合点が行ったのか にんまりと笑って店舗部へと呼びに行った。大分あの娘も馴染んだな。 程なく、笑顔のロッテと戸惑い顔のクララが風呂敷を抱え降りてきた。 勿論アルマも一緒にな?その間に私も、衣装棚から風呂敷包みを出す。 「マイスター、持ってきましたけど……お仕事はいいんですの~?」 「有無、伝票整理くらいならすぐだ。お前達こそ、予定はあるか?」 「特に予定はないんだよ、ボクは明日塾だけど宿題は終わったしね」 「よし、では神田明神やお茶の水まで散歩に出ぬか。これを着てな」 「え!?いいんですか、マイスター……皆行きましょうよ、ねッ!」 服は着る為にあるのだぞ、アルマよ。折角皆で仕立てたのに、着ないのは なんとも勿体ない……そう、この間仕立ててもらった神姫用の和装三着と 同じく私用に仕立てた一着。“妹達”は和室で精神修養を行う際に着るが 私の方は、それ程機会もなく偶に出してにやける程度……そこ笑うなッ! と、とにかくだ!こうして使ってこそ、その良さが実感できるという物! 「そう言う訳だ、皆で着付けて行こうではないか。無論昼は外食だ!」 「はいですの~♪じゃあさっそく、着ましょうですのっ……えいっ♪」 「きゃぁっ!?い、いきなりブラウス剥がさないのロッテちゃん!!」 「……普段より、ずっとはしゃいでるんだよロッテお姉ちゃんってば」 「うわ……わ、私も手伝おう。早く出かけたいだろうしな、有無……」 ……は、鼻血が出そうだ。いや、そこ笑うなと言っているだろうが!? だ、だってなぁ……洋服は何時もの事だし、彼女ら自身でも着られる。 だがまだ和装は慣れていないのか、たまに私の助けを必要としている。 しかしそれももう暫くすれば慣れてしまうだろう。今しかないのだッ! という事で、紅くなりながらも三姉妹の着付けを手早くこなしてやる。 「よし、後は私だけだな……あ、あまりじろじろ見ないでくれるか」 「ふぇ?でもマイスター、いつもは見ても大丈夫じゃないですの?」 「う、む……そうなのだがな?!なんか、和装の時はその……なぁ」 「着替えを見られて照れるマイスター……なかなか、珍しいんだよ」 「ですねぇ。ちょっぴりあたし達も楽しい気持ちになってきます♪」 勝手な事を言う……だが、彼女らだからこそ照れるのかもしれないな。 そう思いつつ、帯を締めて……さして長くない黒髪を項で束ねてみる。 入浴する時でもない限り、髪型を変える事はない私だが……偶にはな? そして私は三姉妹を肩に乗せて、歩き慣れた秋葉原の街へ繰り出した。 『おい、見てみろよあの娘。和服だぜ……しかも神姫までお揃いだし』 「……流石に普段、アキバの客層に和服の人間はおらんからなぁ……」 「にしたって、ちょっと周囲のカメラが向きすぎの気もするんだよ?」 「え、ええっと……ちょっぴり照れくさいですね。普段と違いますし」 「大丈夫ですの♪中央通りを早めに越えて、裏路地に入っちゃえばっ」 ロッテの的確なアドバイス……私が教授した事であるのだが……に従い、 神田明神下の交差点を通らず最短コースで裏道へと抜けて、たどり着く。 休日明けで丁度祭りの合間だったらしく、神田明神はそこそこの人手だ。 手早く賽銭を投げて祈りを捧げる。凡そコレ位しか、やる事はないのだ。 「……ん。お前達、一体何をお祈りしたか……言う筈はないか、有無」 「願い事は大抵そんな物ですの。叶った時に感謝と共に言えば、ね♪」 「……じゃあ、代わりに御神籤でも引いていかないかな。四人全員で」 「あ、いいですね~それって……マイスター、引きましょうよ御神籤」 クララの提案に促され、御神籤を一つずつ引く。巫女からの手渡しだ。 神姫に最初は戸惑った巫女だが、土地柄故かすぐに引かせてもらえた。 そして四人が出揃った所で……一斉に開く!結果は、悲喜交々だった。 ……まあ、占いはプラス思考に考えるべき物である。挽回の時なのだ。 「凶……なんでこんなのが出るんでしょう、あたしって。ううっ……」 「……ボクは、末吉。微妙だし、詳細読むとなんだか不幸だらけだよ」 「わたしは大吉でしたの~♪試練は乗り越えるべき、だそうですけど」 「……私は……まあ、聞くな。少し陽でも浴びて大人しくしようか?」 ──────それでもちょっと言えないよ、“大凶”だなんてね。 メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1428.html
隣は何をする姫ぞ──あるいは晩秋 秋である。景色がセピア色からモノトーンへと遷移し、人々や神姫の “心”にも変化をもたらす時期である……そして、『何とかの秋』と 散々使われるフレーズが示す通りに、その変化は様々なアクションを 行わせる不思議な力を持っている。何故、わざわざ秋なのだろうか? MMS部品を買いこんだ客を見送りつつ、私・槇野晶はそう考える。 「はむはむ……やっぱり焼きたてが一番おいしいですの~♪あむあむ」 「こらこらロッテ、食べすぎると……ガスは出ぬが、腹に溜まるぞ?」 「今なら大丈夫ですの!食事機能のエネルギー変換効率がいいですの」 「……そう言う物なのか?さしずめロッテは“食欲の秋”という所か」 そう。人と若干異なるとは言え、“心”を備える神姫も例外ではない。 流石に普通の神姫であれば有り得ぬが、ロッテが発現させたのはまさに 人で言う“食欲の秋”であった。私がおやつに買ってきた石焼き芋を、 彼女はかれこれ一個半は平らげていた……何?ってちょっと待てっ!? 「ロッテ!私や皆の分はどうしたのだ、四個しか買っていない筈だぞ」 「あ゛っ!ご、ごめんなさいですの~!?甘くて美味しいからついっ」 「はぁ……仕方ない、今食べかけのを私と半分だ。いいなロッテよ?」 「は、はいですの~……でもマイスターとコレで間接……きゃ~っ♪」 「ぶぐっ!?ぐ、ごふぅっ!!な、なんて事を言うかこの娘はッ!?」 ロッテから半分取り上げた芋を口に運んだ所で、思いっきり噴き出す。 た、確かにこれは間接キスだがな……いきなりそんな事を言われると、 此方も一気に来て、堪らなくなってしまう……何だ、何か文句あるか? 変に意識すると意識が乱れる、ただそれだけだ。それ以外にはないッ! 「全く……そう言えば、アルマとクララは何処で何をしているのだ」 「あ、アルマお姉ちゃんはブースにいますの♪お芋、運びますのっ」 「有無。では、肩に乗って持っていてくれ……っと、アルマや~?」 「ふっ、せあっ!まだまだ、もっと打ち込んでくださいモリアン!」 『No problem(では続けます、回避行動を選択してください)』 という訳で私は芋の入った紙をロッテに持たせ、アルマの元へ向かった。 戦闘訓練用のウレタン式ブースでは、両手に“ヨルムンガルド”を持った アルマと、同じく両手に“デストロイ・マチェット”を携えたモリアンが 真剣での組み手をやっている所だった。これは……少々過激ではある物の “スポーツの秋”と言えなくもないか?とりあえず、声を掛けてみるか。 「アルマ、これアルマや。随分と精が出る様だが、休憩も必要だぞ?」 「え?あ、マイスター!そうですね、三十分は打ち込んでました……」 『Negative(バッテリー残量に不安があります)』 「そう、ですか?じゃあ、モリアンは充電して下さい。ありがとうっ」 『No problem(マスターのお役に立てたのならば)』 「我が“妹”ながら感心だな。重量級ランクのバトルが近いとは言え」 「えっと……なんだか気分が高揚して、躯を動かしたくなったんです」 充電用のポッドに戻るモリアンを見送って、アルマのボディチェックを 眼鏡の機能で行う。傷は殆ど無く、機能不全も無し…実に健康的だな。 清々しい彼女の顔は、幸せそうに食べていたロッテの顔とは別の意味で 眩しかった。神姫でも関節用モーターの不全等、“躯の鈍り”はある。 それを予防する意味でも、適度な運動は実に良いのだ……可愛い奴め! 「動いたら栄養補給だ。まずはコレを食べて、それから充電だな?」 「わあ……温かそうなお芋、ですね。じゃあ、遠慮無く頂きますっ」 「有無、さて。茶を用意せねばならん……クララも呼ぶか。クララ」 「……返事がないですの。さっきテーブルで読書してたんですけど」 アルマを肩に乗せ、ロッテから芋を受け取って渡す……その間も、私は クララの名を呼ぶが、反応がないな。ロッテの言っていた大テーブルへ 向かってみない事には見つかりそうもない。三人で、彼女の元に赴く。 テーブルの上には……見事に突っ伏して寝ているクララの姿があった。 「……すぅ、すぅ……むにゃ、マイスター。そんな所触ったらダメだよ」 「この娘は……どんな夢を見ているのだ?というか、“寝言”なのか?」 「えっと、休眠時はデータ整理をしてる事もありますし……多分きっと」 「人間でも眠りで整理をする、って前にマイスターが言ってましたの♪」 ロッテの言う通りなのだが……彼女の寝言は、ちょっとドキドキする。 私の何を整理して何を夢見ているのか、期待と不安が一瞬よぎるのだ。 だが、このまま寝かせておく訳にも行かない。何故か?彼女の下にある 人間サイズの本が、クララの寝返りでクシャクシャになりそうなのだ。 これを見る限り彼女の場合、“読書の秋”という事らしかったが……。 「クララ、クララ!起きてくれんと、本が皺だらけになってしまうぞ」 「ん……?むにゃ、マイスター……?あれ、止めちゃったのかな……」 「止めた?……止めたって、一体何をだ。“夢”の話か、クララよ?」 とりあえず本から降りたクララにも芋を差し出して、私は茶を準備する。 だがその背に、思いも掛けない言葉が浴びせかけられたのだ……うぅッ! 本当に、本当に……可愛い奴らめ!後で、色々とお返ししてやらぬとな。 「うん。ボクを一杯抱きしめて撫でた上で、頬にキスまでしたんだよ」 「な゛ッ!!?ななななっ、なんて夢を見ているのだ!クララッ!?」 「あー……だってマイスター、最近作業と仕事ばかりでしたからねっ」 「だからマイスターは“恋の秋”を満喫するといいですの、ってね♪」 「茶化すな三人ともッ!でも……そうだな、夕方は適当にぶらつくか」 ──────恋する、なんて言葉には……まだならないからね。 メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2654.html
あのゲームセンター内を湧き立たせた試合から幾日。 あんなことがあっても僕たちの日常はつつがなく続いていく。 僕の学校は冬服から夏服に衣替えしたとか期末試験があったとか軽いイベントはあったけど、一番のイベントは、 宮本さんとイスカがフランスに旅立ってしまったことだ。 急遽、日本でやり残していたことを全てキャンセルして行ってしまった。 別にそんなに急ぐ必要はないのでは、と思うのだけどシオンに対して未練が残ってるからさっさと準備して日本を出てしまったのだ。 未練があるのは主にイスカらしいけど。 「ずっと見てて、飽きないの?」 朝のHRが始まる時間ちょっと前。 僕は教室に自分の椅子に座り、机に頬杖を突いている状態。 目線は机に。 座っているシオンに聞いている。 「これは姉さんが出してくれた手紙ですよ。飽きることなんてありません」 あ、そうですか。それは悪いことを聞いてしまいましたね。 思う存分にらめっこしててください。 そう思ってから、顔は窓の向こうの真っ青の空に向く。 ここの教室は3階だから空が見渡しやすいな。 昨日、僕たちに手紙が来た。差出人は宮本さんだ。 日付は旅立つ前だし、日本製の便箋なので、おそらく旅立つ前にポストに出したのだろう。 手紙の内容は宮本さんから色々、シオンに対することの謝罪とかお礼の言葉とかそんな風なのがつらつらと書かれていた。 じつのところ、書いてあったことがかなりの長文で覚えきれないので、ここでは割愛している。 だが、その便箋の入った封筒にはもう一つサイズが一回り以上違う用紙が入っていた。 シオンが持つのにちょうどいい大きさの用紙なので、おそらく神姫同士、イスカお姉さんからの手紙なのだろう。 「ねえ、それ見せてよ」 僕が昨日からお願いしてても。 「ダメです。『マスターさんにはぜったい見せるな』って書いてありますから。これは私だけに宛てた手紙なんですよ」 これなんだから。 僕の神姫なんだから、マスターの僕にそういうのは見せてほしいのだけれどな。 と、そう思考してたら僕の顔にそれが出ていたのか、シオンが言葉を詰まらせた。 「でも、螢斗さんがどうしても見たかったら反故にしても……」 「こら。お姉さんとの約束は守らないとね」 「あ、螢斗さん。ありがとうございます」 シオンは優しいから僕が命令したら見せちゃうんだろうな。 でも、別に僕がマスター権限を行使するほどイスカお姉さんの手紙を見たいわけではない。 無理に読みたいわけでもなし、シオンに嫌がれるかもと思うと僕のちっぽけな度胸はなくなってしまうのだ。 第一、神姫サイズの手紙なんて極細い文字でびっしりと文章が書かれているんだろう。そうに違いない。 ふと、気付くとHR1分前に教室のドアが思いっきり開く音がした。 そして、数秒後。 「ぜぇはぁ…………おは……よ……はぁはぁ……」 「おはよう。淳平」 「はぁはぁ、明日から夏休みという興奮で眠れなくて……な」 聞いてもいないのに、言い訳のようにそう言って僕の隣の机に身を投げ出した。 遅刻寸前だったのを全力疾走と気合いでカバーしたらしい。 淳平が言った通り明日から夏休み。 それで今日は登校した後、HRと終業式だけで終わるから遅刻はしたくなかったみたいだ。 最後くらいは遅刻しないでいよう、という良い心がけではある。 ……いつも遅刻しなかったらもっと良いのだけど。 「すいません。マスターがお見苦しいところを」 淳平に押し潰される前に胸ポケットから飛び出したミスズが机に降り立って、いつもの通り申し訳なさそうにしている。 「毎日大変そうだね。ミスズ」 「ええ。でも、私のマスターですから……マスターは優しいところもあって好きですし」 ミスズはそう言うと顔を赤くさせて、そっぽを向く。 恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。 でも神姫のミスズは淳平が大好きだから、こんな風にフォローしてしまうのだろうな。迷惑が掛かっててもだ。 良かったね淳平、ミスズがこんな神姫で育っていて。 そう思って淳平を見ると、 「……zzZ」 寝るの早!? 淳平は机に突っ伏して寝息をかいていた。 「さすがです。ミスズさん! 武装神姫の鑑です」 突然、僕の机にいたシオンはミスズの言ったことに感動したのか、拳を握りしめている。 ミスズの顔色は元に戻り、シオンの大声に驚いている。 「シオンがそれを言うの? あなたの方がよっぽどマスター思いだわ」 「いいえ、私なんてまだまだ。私も真の武装神姫を目指して今日もひたむき走り続けているんです!」 なんかシオンが熱い。 これが本当のアーティルのあるべき姿なんだろう。 イスカと戦ってから、情熱さとか闘魂とかそういう暑苦しいのがシオンに生まれていた。 まあ、シオンが元気でいてくれるなら僕は良いけどな。 そういえば、ミスズが前に僕に対して「人間の鑑です」なんていう似たようなことを言った覚えがある。 あれから、数か月か。 懐かしいな。 シオンが僕のもとに来てから、色々なことがあって、イスカとも戦って、こうしてシオンは僕の武装神姫でいてくれる。 その現実がたまらなく嬉しかった。 僕が思いをはせている中、教室は本鈴も鳴り終わり、先生が来るのを待っていた時だ。 一陣の風が教室に入ってきて、なんとシオンの傍にあったイスカお姉さんからの手紙が飛ばされてしまった。 そして、それは窓の向こうへ。 「あ、シオン! 手紙が!?」 僕の視界に小さいけど“一行の文章”が、見えてからひらひらと校庭の方に落ちていく手紙。 あんな紙切れが草むらに入ったら見つけ出せる自信がないぞ。 幸い、この下はコンクリートの地面しかないから、風で飛ばされるとか誰かに拾われない限り、手紙はここの教室の真下にある。 「大変です! 螢斗さん!」 「わかってる!」 椅子をひっくり返しながら、シオンを胸ポケットに入れて教室のドアに駆ける。 後ろからはミスズの焦る声。 「HRがすぐにあるんですよ!?」 「終業式には戻るから、淳平起こして代返お願い!」 そう簡潔に言うと、扉を出て廊下を走り階段へダッシュ。 HRが始まってる時間に廊下を走るなんて、普段僕はしないのだけど緊急事態だからしょうがないのだ。 「螢斗さん」 「はぁはぁ……何?」 走りながらもポケットにいるシオンに答える。 結構、運動不足の僕に全力疾走は無理があるのだけど、シオンの呼びかけは無視できない。 シオンは呼んで、一呼吸置いてから。 「私も螢斗さんとずっと家族でいますから」 「……ああ、もちろんだよ!」 その言葉はイスカお姉さんの手紙にあった言葉で――。 ―――― 『 離れてても、私たちはずっと家族だ。 愛する妹へ 姉イスカより 』 ―――― Fin 前へ トップ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2717.html
(動いた……) 相手が笑い終わると、相手に――正確には鎧に変化がおこっていた。スカートのような部分が稼働し、大きな翼のようになったのだ。 (あれが……本気?) (たぶん、シンリーさんの調子が戻ったんだと思う……) 距離はミドル。さらに残り時間は一分と少し。ここから取れる戦法は2つ。 1つ目は後方に下がりながらボレアスで牽制する持久戦。 2つ目は真っ向から立ち向かい、相手を倒しきる短期決戦。私は……。 (エウロスとゼピュロス出して) (行くんだよね) そう、後ろに下がってもジリ貧になるだけ。ならば、立ち向かわなければならない。 (スラスターは任せた) (うん、樹羽はブースターを) お互いの役割を割り振り、身構える。相手も小剣を握り締める。その表情は、どこか活気に満ちている。 先に仕掛けたのは相手からだった。 大地を強く蹴り、跳ぶ。その速さはまさに弾丸のごときだった。 私はとっさに横に飛んだ。だが相手は翼を器用に動かし、それを遮るように動く。 「っ……」 私は片足を前にだし、大地に踵落としする形で接触し、減速。そこから直角に方向転換。つまり相手に向かってである。 相手も減速から方向転換。お互いに相手に向かっていく形になる。相手は小剣を上段に構えている。 「てぇぇいっ!」 振り下ろされる小剣。私は左手のエウロスでそれを剃らし右手のエウロスを相手に付き出す。が、それを副腕がガッチリと押さえこむ。 「っ!」 「へへっ♪」 本体の左手がすかさず私の腕を取る。これで私は武器をしまっても逃げられなくなってしまった。 お互い地面に着地し、視線を交す。状況は圧倒的に不利だ。 右手は完全に抑えられた。これは相手の左手にも言えるが、問題は残った腕の本数。 こっちは左手が一つ。対する相手は副腕含めて二つある。なんか、ずるい。 「えへへ、捕まえたよ♪ これで逃げられないよね」 シンリーがイキイキとした表情を見せる。さっきの死んだ魚の目に比べたら、もはや別人だ。 (樹羽……どうしよう……) シリアの困惑した思考が入ってくる。確かに状況は絶望的だ。下手に動けば左手まで使えなくなり、悪ければそのままやられるだろう。それだけは避けたい。 この硬直状態をどうにかしなければならない。その為には多少のリスクは仕方がない。 (両手のエウロスとゼピュロス、閉まって……代わりに左手にボレアス出して) (まさか、この距離で撃つの!? 駄目だよ! こんな近距離で撃ったらこっちまでダメージが!) (この状態を打破するには、それしかないの。お願い) 相手の小剣が飛んでくる。さらに同時に副腕がエウロスを取るために動く。それに対し、小剣をゼピュロスで受け流した後、エウロスの柄を回転させ、刃を腕の軌道から剃らす。 (……わかった) (私が合図したら、お願い) 相手は未だに余裕の笑みを浮かべている。だが、その表情を今すぐに驚愕にかえる。 もう一度さっきと同じ攻撃がくる。それを今度は小剣だけを受け流し、エウロスをわざと掴ませる。相手は勝ち誇った表情になった。 (今っ!) (っ!) 両手の武器が一斉に無くなる。これにより、左手は再び自由になる。そこから身を捻り、まるで弓を構えるような体勢になる。つがえるのは矢ではなくボレアスだが。 わずかなタイムラグでボレアスが出現する。現れたそれは、相手の胸元にピタリと照準をつけていた。 「なっ!?」 慌てて相手が左手を離す。私は空いた右手を砲身に添え、トリガーを引いた。とっさに後方へ待避した相手を追うようにビームが発射される。それが当たる寸前で、副腕が動くのが見えた。 被弾、小さく爆煙が上がる。 (今がチャンスだよ!) (わかってる!) 相手の体勢が崩れた今がチャンス。一気に攻めあげる。 ブースターを一杯に入れ、爆煙へと突っ込む。既に両手に展開されたエウロスを突きだしながら。 当たれば、かなりの致命傷になっただろう。しかし、相手もそれはわかっていたらしい。爆煙への突入角をもっと考えた方がよかったと後で後悔した。 突きだしたエウロスは左に身を反らされかわされる。 「まだっ!」 膝を曲げ、足のスラスターをふかす。同時にシリアが翼のスラスターを動かし、上体を起こしながらバランスを取る。そこからさらに翼は動き、タイミングを合わせブースターを入れる。 体が急速に右に回転する。遠心力の乗った刃は、相手の副腕の肩を切り裂いた。 (駄目だ、踏み込みが甘い!) 完全に本体を斬るつもりでいたのに、副腕しか斬れなかった。相手は手にした小剣を左から逆袈裟にエウロスに勢いよく当てる。 「ナメ……るなっ!!」 弾かれるエウロス。相手は地面、しかも両手で小剣を持っていたのに対し、こちらは支えのない空中。エウロスは片手で持つしかない。 エウロスが弾かれたことにより、その勢いのまま脇腹を晒してしまう。 「もらったっ!!!」 相手の小剣は、私の脇腹めがけて迫り―― 試合終了のブザーがなった。 バトルが終了すると同時にあたしは我に返った。結果は、ドロー。タイムアップだ。このゲームセンターでは、客を効率良く回すためにドローは両者ともに敗北扱いになる。 (それにしても……) 改めて思うが、バトルの時の樹羽はやっぱり別人のようだ。さっきの最接近状態からのボレアスといい、その前の息も付かせぬ連続攻撃といい。 (あれは、樹羽にしか……ううん、樹羽とシリアにしか出来ない芸当ね……) スラスターの細かい動きを全て神姫に任せ、自分はブースターを入れる。デタラメに聞こえるが、樹羽とシリアなら出来る。あんな行動は、今までどんなマスターを見ても一人もいなかった。 (樹羽は、一体どこまで行けるんだろうな……) その先の未来のことを考え、私は少し胸が痛くなった。 その時だった。 「中々面白い若造がいるじゃないか、ありゃ、おめぇのダチか?」 後ろから懐かしい声がして、あたしはかなり驚いた。振り返るとそこには、見知った顔があった。 「宮下さん、戻ってたんですか?」 「おお、2年ぶりに覗いてみたが、盛り上がってるじゃねぇか」 そう笑うのは、顔に傷のある渋いオジサマ、宮下信彦(みやしたのぶひこ)であった。少し日に焼けたしわのある顔は未だに衰えを見せず、どこかの組のお頭と言われても納得できそうな身なり。2年程前からふらりと旅に出ていたのは知っていたが、まさかここで出会えるとは。 「嬢ちゃんも見ねぇうちにデカくなったなぁ、ん?」 そう言って顔を近付けてくる。とても酒臭かった。 「あのエウクランテを使ってる嬢ちゃん、かなりいいもん持ってるなぁ。ありゃ、かなりいいとこまでいくぜ」 かなり饒舌だが、これは酒が回っているせいだろう。これがこの人の酔っ払った状態なのだ。 「樹羽――あのエウクランテを使ってる子と戦うんですか?」 「いや、一回やっただけでばててちゃ話になんねぇよ。俺はまた来っから、おめぇは早く行ってやんな」 そう言って宮下さんは行ってしまった。あたしは何のことか分からず、振り返ってみた。 そこには、椅子に座ってぐったりしている樹羽の姿があった。 バトル終了のブザーが鳴った。結果はドロー。両者ともに負けらしい。 私はいつものようにライドアウトした。しかし、いつまで経っても手足の感覚は戻らない。視界など存在せず、あるのは無限の闇ばかり。 (あれ……何が……?) 思考がまとまらない。そこにない体が冷たくなっていくのがわかる。 私、このまま■ぬのかな……? 「樹羽っ!!!!」 「……華凛?」 目を開けると、そこには今にも泣きそうな華凛の顔があった。その奥には見慣れない天井がある。 「よかったぁ、よかったよぉ……」 「……ここは?」 「ゲーセンの休憩所だ。あんた、バトル終了しても目を覚まさなかったんだぜ」 手に当たる感覚や、背中に当たる感覚で自分が長いソファに横たわっていることがわかった。声のする方に首を巡らせると、壁に寄りかかってカップを傾けている東雲くんの姿があった。 さらに首を巡らせる。確かに休憩所のような場所だ。ゲームセンターのやかましいゲーム音は、この部屋までは届いていない。本当にゲームセンターかどうかも怪しいほどだ。 「シリア、いる?」 「ここにいるよ」 シリアが顔を覗き込んでくる。やっぱり、心配そうな顔をしている。 「みんな、ごめんね。心配かけて……」 「ううん、樹羽が無事でなによりだよぉ……」 華凛が涙声で答える。東雲くんは少し浮かない顔をしていた。 「どうしたの?」 「いや……」 私は体を起こそうとして、出来なかった。まだ力が入らない。 「こんな時になんだが、さっきの試合、どうにも納得いかなくてな。あの尋常なまでの速度はなんだよ」 「んー、あれはスラスターをシリアにやってもらって、私はブースターを」 「はぁ?」 東雲くんが呆れた顔をする。あからさまに「こいつは何を言ってるんだ」という顔だ。 「出来るのよ、この子は。どういう理屈かわからないけど、ブースターを感覚で動かせるの」 華凛が涙を拭き、いつもの調子を取り戻す。 「秋已、お前まで何言って……」 「あんたは直に体験したでしょ。あれを全て神姫にやらせようってのは無理があるわ」 「む、むちゃくちゃだ……」 東雲くんは頭を抱えてしまった。やはり、私の能力は一般的に言ったら異常らしい。 「樹羽、立てる?」 「うん、そろそろ平気」 華凛に手を貸してもらい、なんとか起き上がる。 「ほんとに平気? 樹羽」 「ありがとうシリア。大丈夫だから」 「むちゃくちゃだ……そんなの」 まだ頭を抱えていた青年がいた。 樹羽は『むちゃくちゃ少女』の称号を得た。 明日もゲーセンね! 有無を言わせない口調で華凛はそう告げ、私はまた一人帰路についていた。 「今回のバトル、うまくいったね!」 「ドローだったけど」 訂正、二人だ。シリアは今肩に乗っている。揺れが酷いのか、片手は私の頬に、もう片方の手は私の服をしっかり握っていた。 「不思議だったよ! まるで樹羽と一体になったみたいだった!」 「……私も」 あの連続攻撃の時、不思議とシリアが次にどっちにスラスターを動かすかがわかったような気がする。なんと形容したらいいんだろう? こう、私がもう一人いるような、そんな……。 「あ、樹羽前!」 「え、あうっ」 考えごとをしていたら誰かとぶつかってしまった。慌てて飛び退く。 かなり大柄な人だ。歩く度にジャラジャラと付けたアクセサリーが鳴る。それに変な髪型だ。フランスパンを頭に乗っけたような感じ。その顔にある二つの目が、私を睨みつけていた。 「ああ!? どこに目ぇつけてんだ!?」 「ひぅっ、す、すみませ……」 突然怒鳴りつけられ、私はびくついた。よく見ると、後ろにも似たような人が二人ほどいる。 「すいません! ぶつかってしまったことは謝ります! ですから許してください!」 「シリア……」 シリアが必死に頭を下げる。だが男達はシリアの言葉を聞こうとはしなかった。 「へっ、すみませんで許されりゃ、ポリ公はいらねぇんだよ!」 「へぇ~、よく見たら可愛いじゃねぇか。きっちり落とし前付けてくれなきゃなぁ?」 「てめ、ロリコンかよ」 会話しながら、私の腕を掴んでくる。とても手が大きく、力も強くて逃げられそうにない。 「おら、きっちり落とし前付けさせてやるよ!」 「樹羽に触らないで!」 シリアが抗議する。しかし、全長15cmの体では無理があった。 「うっせぇ! 神姫はひっこんでろっ!!」 シリアは掴まれ、別の男の手に渡る。 「シリア!」 「おら! ついてきやがれ!」 「いや、離して……」 しかし、私もまた非力だった。抵抗する側からそれ以上の力でねじふせられる。 このまま私はどうなってしまうんだろう? 私が諦めかけたその時、 「待ちな!」 凛とした声が、閑散とした住宅街に響いた。 「すいません! ぶつかってしまったことは謝ります! ですから許してください!」 必死に頭を下げる。だが相手はこちらにわざとぶつかってきた。本来なら、謝る必要などない。 しかし、ここで私が強く言えば、迷惑するのは樹羽だ。 「シリア……」 「へっ、すみませんで許されりゃ、ポリ公はいらねぇんだよ!」 「へぇ~、よく見たら可愛いじゃねぇか。きっちり落とし前付けてくれなきゃなぁ?」 「てめ、ロリコンかよ」 話ながら、樹羽の腕を掴む不良。 「おら、きっちり落とし前付けさせてやるよ!」 私が我慢出来たのはそこまでだった。 「樹羽に触らないで!」 「うっせぇ! 神姫はひっこんでろっ!!」 男の手が私に迫る。私はあっさりと捕まり、放物線を描いて別の男の手に渡る。 「シリア!」 「おら! ついてきやがれ!」 不良が樹羽を無理矢理引っ張る。私はここでそれを見ているしかなかった。 「いや、離して……」 私は無力だった。所詮は15cmの人形。人の力には敵わない。 あの時もそうだった。私はあの時から何も変わっていない。人を止められる力は、ない。 (誰か……誰でもいい! 樹羽を……樹羽を助けて!!) それは悲痛の叫び。そしてその叫びは、願いは、叶ったのだ。 「待ちな!」 閑散とした住宅街に響く、凛とした声。私は声のする方向を向いた。 最初に目につくのは、真っ白な長ラン。夕日で真っ赤に染まったそれと、同じ白の鉢巻き。そして、元から紅い鮮やかな長髪。木刀を持ったら、昔流行った番長のようだ。 だが夕日をバックに立っている立ち姿は、今の私には正義の味方のように見えた。 不良の視線が一斉にその“女性”に向けられる。 「その子から手を離しな。いい歳した男が女の子に手ぇ出すたぁ情けねぇ」 しゃべり方もそれっぽいし。 「ああん? 誰だてめぇ?」 不良の一人が物凄い形相で聞く。その表情に私は少し怖じ気付いたが、女性はむしろ呆れていた。 「てめぇらの耳は飾りか? あたしはその手を離せって言ったんだ」 その言葉に不良二人が反応する。 「へっ、意気がんのも大概にしろやこのアマ……」 「女だからって容赦しねぇぞコラァ……」 私を放り、手をごきごきとやらしながら女性に近付く。 「わわっ、と」 放られた私は、なんとか地面に着地した。神姫の重さがそれほどないことが幸いした。 女性は黙って近付いてくるその男たちを睨んでいる。不良たちが女性の前に立つ。ここからだと、男の姿で女性が見えない。 「今なら、さっきのは聞かなかったことにしてやるよ」 そう言って、不良の一人が女性の肩を叩いた。 次の瞬間、肩を叩いた不良が宙を舞った。 3メートル近く高く吹き飛んだ不良は、白眼を剥いたまま落下した。 「あたしに……触れるな」 仲間がわけもわからず吹き飛んだことについていけず、フリーズしていたもう一人は、その言葉に我に返った。 「……っ! っこいてんじゃねぇぞこのアマ!!」 そう叫び、右手で殴りかかる。だが、この不良も先程の不良同様、投げ飛ばされることになる。女性はそれをパシッとそれを左手で受け止めると、 「遅い……」 ギュルン、とすさまじい回転をつけて不良を投げ飛ばした。今度は高さが無い分、回転が酷い。頭は右に、胴体は左に、足は左右別々の回転がかかっている。 これまた白眼を剥いて、しかも泡くって落ちた。 「最後通告だ。その子から手ぇ離しな」 冷たく言い放った言葉に、残った不良は耐えられるはずもなく。 「ち、畜生っ! 覚えてろ!」 お決まりの捨て台詞を吐き、仲間二人を引きずって去っていった。 (す、すごい……) 私は思わず息を飲んだ。どうやってあんな大男を投げ飛ばせたんだろう。なんかもう物理現象を無視しているような投げっぷりだった。 「シリア、大丈夫?」 樹羽が私に手をさしのべてくれる。私はそれに乗って座った。 「うん、私は平気。ごめんね、私、全然役に立たなかった……」 「そんなことない、ありがとう」 何の嫌味もない、素直なありがとう。私はあの不良に無意味に頭を下げたり、叫んだりしか出来なかったのに、樹羽は私にありがとうだなんて……。 「せめて、エウロスがあれば刺せるのに……」 「……?」 「ううん、なんでもない」 今度ヤスリで削って仕込んどこうかな? 「怪我はないかい?」 その時、女性が樹羽の元までやって来た。さっきまで不良を投げ飛ばしていたとは思えないほどさっぱりしている。 「…………」 樹羽はうつむいて少し気まずそうにしている。たぶん、何て言えばいいのかわからないんだろう。華凛さんがいないからフォローは私の役目だ。 「あ、大丈夫です。ね、樹羽」 「う、うん、大丈夫……」 私が同意を求めると、樹羽は小さく頷いた。やっぱり、まだ初対面の人とのコミュニケーションが苦手らしい。 「そっか、そりゃよかったよ」 女性はにっこりと笑う。その笑顔には、不思議と安心する何かがあった。 「神姫、持ってるんだね。なら、あたしも紹介しとこうかな」 そう言って、僅かに膨らんだ長ランのポケットを軽くつつく。すると、中から神姫が顔を出した。 桃色の長い髪に、赤いスポーティなボディ。アーク型だった。 「んー? 終わったのかい? あー、自己紹介だっけ」 少し眠たげな声をしている。さっきまで寝ていたのだろう。 「あたしは紅葉。姉貴の神姫だよ」 「姉貴?」 「ああ、あたしのことだよ。あたしは木嶺楓(もくれいかえで)。呼びにくいだろうから、楓でいいよ」 「か、楓さん……その……」 樹羽が何か言いたそうにしている。私はそれを黙って見守っていた。 「あ、ありがとうございます……」 「いいって、あたしがああいうのが許せないだけだから」 朗らかに笑う楓さん。樹羽もつられて少し表情を崩したのを私は見逃さなかった。 「姉貴、急がないと遅れるよ」 「あ、もうそんな時間か? 悪いね、あたしちょっと急用あるから、それじゃまたどっかで!」 登場と同じく、素早く消える楓さん。本当に一陣の風のようだ。なんというか、怖そうに見えて実のところそうじゃないあのギャップというんだろうか? なんとなく親しみやすい人だった。 「……私たちも帰ろっか」 「うん、そうだね」 不良に襲われたのがまるで嘘だったかのように、私達は家に帰った。 今更だが、こっちは一切名乗っていなかったのを思い出したのは、家に着き、クレイドルに腰をおろした時だった。 第六話の2へ 第七話の1へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2730.html
一番好きなのはⅧの斬鉄剣(著者の好みであって本編とは一切関係ありません) 7月30日(土) 「…………」 「おう、奇遇だな」 翌日、復帰した華凛とともにゲームセンターへと訪れた私を待っていたのは、あの宮下さんだった。確かに昨日、いい勝負が出来るかもと思ってはみたが、まさか本当に宮下さんがくるとは。 この間と変わらぬ黒いコートに鋭い視線。ここに立つだけで私は逃げ出してしまいたくなる。当然そんなことはしたくない。 私は一度だけ華凛の方を見た。私の視線に気付いた華凛は、無言で一回頷いた。 私はそこに“自信を持って頑張りなさい”と言う意味を見い出した。 私は覚悟を決めて筺体の前に座った。 「やるんだな?」 だがしかし、私の決意はその低い声だけであっけなく崩れかけた。 「やります」 一言、私ではなくシリアがそう宣言した。真っ直ぐ宮下さんに向き合い、手を握り込んでいる。心なしか肩が震えている。シリアだって怖いはずだ。手も足も出せず倒されてしまった相手だ。また負けるかもしれないという圧倒的恐怖。シリアはそれに耐えて自ら立ち向かっている。 これが私の見習うべき姿なのかもしれない。 「……やる」 私も再び覚悟を固め、そう宣言した。 宮下さんも一回頷くと無言でコートのポケットを叩いた。すぐに静が飛び出し、筺体の上に着地する。そしてすぐに筺体の中に入り込んだ。シリアもそれに続くように筺体に入る。 私もヘッドギアをつけて、ボタンを押した。宮下さんも同様に。 『神姫ライドシステムを起動します。マスターは椅子に深く腰掛けてください』 いつもの無機質なアナウンス。それなのに、どことなく違うように感じる。 『カウントダウンを開始します。10、9、8、7…』 カウントダウンも、まるで私の緊張に呼応しているように思えてくる。そして…… 『…3、2、1、0、RideOn―――』 バトルが始まった。今回のバトルは強制負けイベントなんかじゃない。正々堂々の本気のバトルだ。 大画面の中で静が刀を握る。その刀は、いつもの光学兵器殺しだった。まぁ、始めはそれだろう。樹羽のボレアスの警戒だ。 (宮下さんは、アレ使うのかしら……?) 2本ある内のもう一本。宮下さんがアレを使うことは滅多にない。使う時は、本気の時だけだ。 (使っちゃったら、バトルにならないか……) 静の武装が純正装備なのは、コストの大半をそれに持っていかれているからだ。使いどころの中々ない、このままでは本当にお荷物になってしまう刀。それを、今日は抜くのだろうか? (抜かれたら抜かれた時、か。あれ……?) 急に視界がぼやけていく。唐突に立ちくらみがして、あたしは思わず壁に背を預けた。頭がひどく痛む。肺が酸素を求めている。ゆっくりと息を吸い、落ち着いて吐き出す。うん、ちょっと楽になった。 (ったく、病気かってのあたしは……) 別に病気な訳ではない。原因はだいたい予想つく。だからこそ、どうしようもない。どうすることも出来ない。 (何であたし、ここまでしてんのかしらね……) 頭に腕を当てながら、今更そんな事を考える。本当に今更過ぎて、なんだか笑えてくる。 でもこれが、今あたしが生きている意味だから。 壁にもたれかかりながら、天井から下がった画面を見つめる。もう勝負は始まっていた。今まさに両者が激突するところだ。 (頑張んなさいよ、樹羽。負けたら承知しないんだから……) あたしはそのまま画面を見続けた。 あたしには見ることしか出来ないから。今も、そして、これからも。 (あれ、やっぱり……変だな……) ふらふらと平行感覚がなくなっていく。両肩を抱いたが、足から力が抜けた。体を支えきれず視界が傾く。頭と肩から床にぶつかったのにも関わらず、何故か痛みはなかった。瞼が重い。あたしの意思に関係なく勝手に閉じようとする。 (樹羽の勝負……見たいのに……) 必死に目を開けようとする。なのに、意識はどんどん深く落ちていく。 その時、誰かがあたしの側まで駆け寄ってきた。 (誰か……呼んでるの?) 誰かがあたしのことを必死になって呼んでいる。樹羽かな? さっき勝負始まったばっかりなのに、もう終わっちゃったの? (ごめんね……やっぱり無理……) あたしは起きようとしたが、そのまま意識は闇の中へと消え去った。 「マスター、早くいこうよ!」 「わーってるよ! 珍しいよな、お前がネタ探し以外でゲーセン行くなんて」 「もちろんそれもあるよ。だけど、あたしもたまには普通にバトルしてみたいんだ。神姫の性ってやつ?」 「神姫の性、ねぇ……」 俺は今、シンリーを連れてゲーセンに向かっている。夏休みに入って特にやることもなかった俺を、シンリーが誘ったのだ。こいつが自分から進んでバトルをしようと言うのは中々に珍しい。神姫であるにも関わらずバトルよりも作曲に興味があるなんて、何度も思うがもしかしてこいつ壊れてるんじゃないだろうか? まぁ、そういうところがいいんだがな。 「? どうしたのマスター?」 「いや、なんでもない」 「……そう?」 そんな話をしながら、俺は歩調を早めた。今日も暑い。早く室内に入って涼みたい気分だ。やがて見慣れた建物の前に辿り着く。 「ほら、着いたぞ」 「よし! バトルが私を待っている!」 「あんまりはしゃぎすぎるなよ」 言いながら、俺は急いで自動ドアをくぐった。途端、冷たい空気に包まれる。あぁ、暑い日はクーラーとかエアコンとかの有りがたみがよくわかる。 人やゲーム器を避けながら、俺たちは神姫バトルブースへとやってきた。今日もいろんな人がバトルしている。 「あれ? マスター、あれって華凛さんじゃない?」 シンリーが指さす先には、秋已がいた。壁に寄りかかって画面を見据えている。 「ん、本当だ。おーい秋已……秋已?」 「なんか、様子変だよ……」 俺たちが話す中、秋已は自分の肩を抱いたかと思うと、そのまま足から崩れた。 「倒れたっ!?」 「秋已っ!!」 駆け寄って呼び掛ける。こういう時、あんまり触らない方がいいんだっけ。 「おい、しっかりしろよ!」 「マスター、脈と呼吸!」 慌てて俺は秋已の口元に手を当てた。幸い息はしている。気を失っただけのようだ。とりあえず一安心。 しかし秋已をこのままにしておく訳にはいかない。また休憩室に運ぶかと思い、秋已の首と膝に腕を通そうとした。 「待ちな」 突然の声に、手が止まる。振り返るとそこには若い女性が立っていた。気の強そうな目尻にハチマキ。だいたい俺と同じか、少し年上ぐらいだ。さらに目を引くのはその服だった。数十年前に廃れ、今では絶対に見ることの出来ないとさえ言われている白の長ラン。そして、目の前のクラスメイトよりも鮮やかな紅い髪だ。 「その子をどうする気だい?」 「ど、どうって、突然気を失ったから休憩室に運ぼうとしたんだよ」 「…………」 あからさまに信用されていない。なんで俺は初対面の人に信用されないんだろう。この間も目の前の女の人が落とした物を届けたら、盗んだんだろっておもいっきり濡衣着せられたし。 「姉貴、前の姉貴に戻ってるよ」 そう言って女性をたしなめているのは、彼女のポケットから顔を除かせているアーク型だった。 「……悪い、紅葉。からまれてるのが知人だとわかっちまうと、どうにも収まりがな」 「いや、からんでねぇんだけど……」 女性は一回深呼吸をした。そしてもう一度こちらを見る。その瞳からは警戒色が薄れていた。 「あんたその子の友達?」 「友達っつうか、クラスメイトだ」 「そっか、悪いね。どうにも男って生き物は信用ならなくて」 「そ、そうか……」 どうやら俺の人柄云々ではないらしい。女性は秋已に近付くと、俺の代わりに彼女を抱き上げた。 「とにかく行こう。話はそれからだ」 「あ、あぁ……」 俺とその女性は、まるで雑木林のような人の波を抜けて休憩室に入った。中にはちょうどよく誰もいなかった。扉が閉まると同時に、ゲーム類の騒音は消え去る。 女性は秋已を備え付けのソファに寝かせると、こちらに振り返った。 「改めて、さっきは悪かったな。あたしは木嶺楓。こっちは紅葉」 「よろしくな!」 「俺は東雲榊。こっちはシンリーだ」 「…………」 てっきりすぐ後に続いてくれるかと思ったが、なぜかシンリーはバックの中で何かぶつぶつ呟いている。 「姉貴……廃れた番長……その内に秘められた想い……」 「……シンリー?」 駄目だ、完全に作曲の世界に入ってしまっている。こうなったこいつは、会話<作曲になるのだ。 「悪い、こうなったらこいつ周りが一切見えなくなるんだ」 「気にすんな。あたしも男に触れられたら周りが見えなくなるから」 「今の内に言っとくけど、不可抗力でも姉貴には触れるなよ。じゃないとあんた、ここの天井か壁に突き刺さる……いや、埋まるから」 訳がわからないが、どうやら触れてはいけないらしい。そう言えば、男性恐怖症の女性マスターがいると聞いた事がある。二年くらい前に聞いたが、なるほど、この人か。割りと目立つのに、二年間一切姿を見なかったな。 「あんた、榊だっけ? この子の連れの樹羽って子知ってるかい?」 「あぁ、一回戦った事がある」 結果はドローだったが、最初からクライマックスなら勝てる自信はある。全てはシンリーのやる気次第だがな。 「なら話が早い。あたしはこの子を看てるから、榊は樹羽ちゃんにこの事を知らせてきてくれ」 「わかった。秋已のこと頼むな」 俺は秋已を彼女に任せ、休憩室を出た。 シンリーは既に鞄の中で端末を使って曲を作り始めている。この間作ったばかりだと言うのに、何故こんなに曲が作れるのだろうか? やっぱりこいつはどこかおかしいのかもしれない。 (この間作ったのは……『夢追うままに努力して』だったかな?) いやにパチモン臭いが、これはこれで人気もあるのが事実なのだ。どこがどういいのか、俺にはわからん。 バトルブースまで戻ってくると、俺はバトルしていると思われる小柄な影を探した。それはあっさり見付かった。まだバトルしている。モニターを見たが、そろそろ終わりそうだ。 (さて、どう説明すっかな……) まぁ、普通に話せば問題ないはずだ。 俺はバトルが終わるのを一人で待った。 第十話の2へ トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1438.html
猛り狂いし、地を灼く竜(前編) その日、私・槇野晶は神姫達が目覚める前から大忙しであった。何しろ、 彼女らが重量級ランクに挑む日なのだ。リサーチしたデータと自己鍛錬の 経験……そして私自身と彼女らの“技術”が、勝敗の全てを握っている。 ノウハウなど存在しないも同義。正直、全員未知の荒野へ旅立つ気分だ。 ならば、出来る準備を可能な限り行うしかない。それが明暗を分けるッ! 「充電完了、システム起動──ふぁ……おはようございますですの~♪」 「む、起きたかロッテ。アルマとクララも、起こしてやってくれんか?」 「はいですの!マイスター、寝ないでずっと準備していましたの……?」 「……仮眠は少々取ったが、結構ギリギリだな。しかし頑張らねばッ!」 そして朝日を迎える内に、前日まで練習尽くしだった“妹”達も次々と 目覚めてくる。それと前後して、“プルマージュ”の最終調整も完了。 本来は“アルファル”も同時使用出来るのだが、今日は敢えて使わぬ。 “プルマージュ”に皆が慣れているか、その力を引き出せるかが肝要。 それを見極めてからでも、決して遅くはないはずだ……という訳でッ! 「よし、皆着替えと洗浄は終わったな?忘れ物も……有無、無しッ!」 「“プルマージュ”達も、コンテナでちゃんと寝てるから大丈夫だよ」 「それじゃ皆、行きましょう?……あたし達の、新しいステージにっ」 「はいですの~♪どんな姉妹達がいるのか、今から楽しみですの~♪」 コンテナの増加で更に巨大化した、キャリアを引っ張りつつ店を出る。 旅行鞄風のコレに、神姫達の武装パーツは無論の事……着替えや相棒の “アルファル”と“プルマージュ”が、更には各種電装機器や充電用の 小型バッテリーまでも搭載されている訳で……流石にデカくて重いッ! 「ふぃぃ……流石に私の背丈に迫る勢いの荷物、骨が折れるな……」 「どうせなら駆動系付けて、マイスターが乗っちゃえばいいんだよ」 「それも手だが、アキバの雑踏では些か危険だろう……だが、ふむ」 「乗れないにしても、モーターで車輪の動きを支えられませんか?」 「電気自転車みたいな感じですの。あ、付きましたのマイスター!」 そんな他愛もない雑談で辛さを紛らわせつつ、神姫センターへ入店する。 流石にこの時期ともなれば、空調は暖房か……快適だな。私はマフラーを 外し、“妹”達のコートも脱がせる。その下にあるのは、“フィオラ”。 あくまでもエントリーは“可憐・華麗”に。その拘りは貫きたいのでな! 「バトルの申し込みは先程終わらせた。誰が一番に来るかは分からぬ」 「い、一番にあたしが来る可能性もあるんですね?……緊張しますっ」 「確率三分の一だから、そこまで気張らなくてもいいと思うんだよ?」 「そうですの~♪対戦相手が何時見つかるかの方が、心配ですの……」 『槇野晶さん、アルマの対戦相手が見つかりました。オーナー席へ~』 「ひゃいっ!?あぅぅ……やっぱり一番でした。気合、入れないとっ」 なんだかんだでアルマは緊張しているのだろう。私は彼女を抱き上げて、 優しくエントリーゲートに降ろし、アルマの武装ケースをサイドボードに 差し込む。リサーチした寸法通りに、箱はピッタリと収まった。完璧だ! 「大丈夫だ。私達が見守っている……存分に、蹴散らしてこいよっ!!」 「は、はいッ!恥じない戦いを、してきます……じゃ、行ってきます!」 私達三人の笑顔に見送られて、アルマはゲートの奥へと降りていった。 彼女の意識は、ヴァーチャルフィールドへと遷移し……戦いが始まる! しかし、見守っていた私は……重要な事実を告げなかったのだ。迂闊! 『アルマvsガルラ、本日の重量級リーグ第4戦闘、開始します!』 「で、出番ですね……」 『なお、ゲートより神姫は高速射出されます。衝撃に備えてください』 「──────へ?」 「そう言えば……アルマ、開始と同時にファフナーを呼ぶのだ!」 「は、はいぃぃっ!?」 『3……2……1……GO!!』 「きゃ、ああぁぁぁぁ~っ……!?」 そう、重量級ランクでは目方のバラツキが大きくなりがちである。故に、 神姫達はリニア射出により、ゲートから一定速度で強制排出されるのだ。 開始時の相対距離をある程度一定に保つ事で封殺を防ぐ、等の名目でな。 だが生身でそれを受ければ、障害物や床に激突してしまうのだ……むう。 「ひゃあぁ……ファフナーッ!?」 『グルル……グルォォォオンッ!!』 「きゃっ!?ふぅ、た……助かりました」 しかし気の利く様になった“相棒”が、即座に彼女をピックアップする! そこへ、近くの岩山から対戦相手となる神姫の声が響いた。今回は誰だ? 「無様ね。貴女、この戦場は初めてなのかしら?」 「ッ!?貴女が対戦相手のガルラさん、ですね?」 「そう、苛烈なる鳥の女帝……それが私、ガルラ!」 少々ナルシストの入ったその神姫は、“神姫パーツ流用組”らしかった。 来年発売の限定バージョン・エウクランテ及びイーアネイラを意識した、 黒と紅に彩られた第五弾のリペイントパーツ。更に、それを覆う様にして 全身に纏ったティグリースとウィルトゥースの装備……頭部は、禍々しい アレンジのバイザーに覆われており、口と金のポニーしか見えぬ作りだ。 だが改造パーツとは言え、その娘は紛れもなく公式パーツを用いていた! 「ふぅん。通常ランクでは一応セカンドなのね、貴女……?」 「お陰様で……でも、そんな“常識”が通用しない事は弁えてます」 「そう。なら話が早いわ……ここでの流儀、見せてあげましょうッ!」 「手合わせ、願います……行きましょう、ファフナー!」 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 『グルォォォォォォンッ!!!』 “朱天”由来の大剣を振るう鳥の女王を目の前に、アルマは怯まない。 “フィオラ”から追加パーツ付きの“シルフィード”に姿を変えた上、 ファフナーの背中に己の太腿から下を“合体”させた。これが、第一の 戦闘形態。竜騎士の型……“ドラグーン・シルエット”である!付属の “センチュリオン”と“ティンクルスター”を携えて、彼女が構えた。 「なるほど、騎乗型なのね……しかし、その程度見飽きたわ!」 「あたし達を、普通に見ない方が良いですよ……参りますッ!!」 『グルォォォオンッ!!』 ──────竜の騎士として、誇り高くあろうね。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/352.html
戦うことを忘れた武装神姫 その5 「えーっと、デザインナイフ、デザインナイフ・・・あ、あれ?どこだ?」 デカールの切り出しをしたいのだが、どこを探してもが見当たらない。 ふと、手元に殺気が。。。 横を見ると、すごい形相で俺をにらみつけるシンメイが。 そして、その手には・・・刃を替えたばかりのデザインナイフ。 「・・・。」 「・・・。」 無言の数秒。 「覚悟はできていますか。」 「あの・・・状況が掴めないんですが・・・もしかして俺、脅迫されてます?」 「脅迫ではありません。これは尋問です。」 「じゃあ始めの『覚悟できていますか』ってどういう意味を持つんだよっ!」 「気にしないで下さい。 いいですか、正直に答えて下さい。」 すっとデザインナイフの先端を俺に向ける犬子のシンメイ。 「あなたは・・・私が隠していた最後のエンゼルパイを食してしまいましたね?」 「は?知らんぞ。だいたい隠すっていっても・・・」 「とぼけないで下さい。先ほど、エルガとイオさんにも尋ねました。現在の所、アリバイがないのはマスター、貴方だけです。」 「まてっ!! まだ何にも答えてないのに何でそうなるんだよ。。。」 ぬぬ・・・探偵物のドラマを見過ぎた影響なのか? 「昨日の2100にはまだ存在を確認しました。その後一晩経ち、今朝1030には消失し、袋だけがゴミ箱で発見されました。昨晩、貴方はどのような行動を?」 「・・・あのさぁ、俺、泊まり勤務でさっき帰ってきたんだけど。」 「・・・。」 「・・・。」 再び無言の時間。と、そこへ白子のイオがやってきた。 「あら、シンメイ。マスターを立派に脅迫しちゃって・・・。新手のプレイですか?」 「プレイじゃないわ! ったく、イオも相変わらずマイペースだなぁ、おい・・・。」 「ちょうど良かった。昨日の件ですけどね、あのお菓子、あなたが召し上がっていたじゃないですか。まぁ、あれだけ呑めば記憶がなくなって致し方ないかと・・・。」 イオがすっと差し出すは、俺のPCのウェブカメラをリンクさせて撮ったと思しき証拠写真。 酔いつぶれたリゼの上に腰掛け、ウヰスキーのミニボトルを右手に持ち、左足ではねだるエルガを蹴り飛ばし、左手には・・・ エンゼルパイ。 「・・・。」 俺と、イオの視線がシンメイに集まる。 「・・・・・・・・。」 シンメイの顔が、好物の林檎よりも赤くなる。手にしたデザインナイフを静かに置くと、 「も・・・申し訳ありませんでしたっ! つい酒がすぎてしまい・・・本当に申し訳ありませんでしたっ!!」 両手をついて、頭をゴリゴリすりつけて謝る。だが、そのけなげな謝罪はほとんど目に入らなかった。いや、入れる余裕がなかった。 「いや、別にそんなにしてまで謝らなくてもいいけどさ・・・それよりこのボトル・・・」 ブレてしまい、はっきり判別できないそのミニボトルを指しイオに訊く。 「それですか? やはり昨晩、エルガがマスターの卓上で見つけて、皆で呑んだのですが。」 飲まれた酒は、数年かけて入手した、25年物のスコッチ。。。 「・・・もしかして、飲みきった?」 恐る恐る尋ねると、、 「私はほんの一口程度ですが、リゼとシンメイの二人で空っぽですよ。」 と、イオは空の瓶をどこからか取り出して俺の前に置いた。 怒りを通り越し、虚しい風が心を吹き抜ける。 「お、俺の秘蔵の一本が・・・。 おい、リゼ!ちょっとこい!シンメイ逃げるなっ!!」 俺は二人を卓上に並んで正座させ、久々にしたくもないお説教をするハメになったのであった。 戦うことを嫌い、昼間からTVを眺める神姫。 ここに居るのは、戦うことを忘れた武装神姫。。。 <その4 へ戻る< >その6 へ進む> <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2283.html
3rd RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~2/4』 大学構内。 城尊公園。 白築通り。 町を優しく淡く包み込み、しかし鮮麗に燃える高揚感を描くような桜色。 雨よりも、雪よりも、陽光よりも軽く儚く舞う花。 人が燃え上がる火の粉に心を奪われるように。 散る桜もまた、誰の情を惹きつけて止まない。 「こうして歩いてると、なんだか物語の主人公になった気分にならない?」 くすぐったそうな笑みを零して、姫乃は俺の顔を覗き込んだ。 それが、この瞬間が、二度と訪れることのない情景であることが寂しくて。 俺は返事を返せないでいた。 「桜の魅力――ううん、魔力かな。 ずっとずっと昔から」 たくさんの人が、この魔力に魅せられてきたのよね。 姫乃はそう言って一歩先へ出て、絹のようにしなやかな身体を翻した。 白いシャツが、透き通るような肌が、桜に負けないくらい、眩しい。 「弧域くん、後でお花見しない?」 桜色に満ちた世界を後の楽しみにして。 「――――二人だけで、ね」 俺たちは、大型家電量販店 『ヨドマルカメラ』 へ向かった。 ―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽― あなーたの(ヨドマル♪) そぉーばに(ヨドマル♪) ヨドマルカ~メラァ~ いつーでも(ヨドマル♪) どこーでも(ヨドマル♪) なんでもそ~ろうぅ~ テレビにエアコンそうじきゲーム けいたいでんわもパソコンもぉ~ 「あなたの暮らし、私たちにお任せください!」 ヨドマルカ~メ~ラァ~アッアァア~ ―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽― 念のために言っておくが、俺も姫乃も花鳥風月をこよなく愛する類の人だ。 姫乃の趣味は知らない土地の一人歩きで、その土地での風景や出会いを宝物にしている。 廃墟になった神社でパジャマの領収書を拾ってきたり。 野良犬と折りたたみ自転車で頭文字Dしたり。 至高のメロンパンを鞄いっぱいに詰め込んだり。 猫にジブリ映画よろしく山道を案内してもらったり。 その山道から人様の民家の庭に出たり。 丁度そこの住民と出くわして気まずく挨拶したり。 小学生に吠えられたり。 女子用ス◯水を拾ってきたり。 一人歩きは本当に危ないからやめてくれと口をすっぱくして言っても、休日にふらっといなくなったと思ったら聞いたこともない土地から写真を送ってきたり、わけの分からない土産話を持って帰ってくるのだ。 「神姫売り場ってどこ?」 「二階。 おもちゃ売り場の中に特設コーナーがあるのよ」 俺も日本らしい趣が好きで弓道をやっている。 鳶の鳴き声。 矢が放たれる瞬間の甲高い音と、的の紙に穴を空ける音。 この三つの音だけが響く弓道場はなんというか、いやなんともいえずたまらんのだ。 (現実は180度逆で、高校生や大学生の弓道は他のスポーツに負けず劣らず五月蝿い。 そもそも鳶が鳴く弓道場なんて俺の知る限り、我がボロアパートから電車で三時間はかかるド田舎にしかない) 弓道の腕前はお世辞にも良しとし難いものだけれども。 独特の雰囲気に飽きることなく、高校生から大学生になった今でも真面目に練習に取り組んでいる。 「二階って寄るとこないもんなあ。 ヨドマルに来る用事なんて本かパソコンくらいだし、地下と三階にしか行ったことないや」 「私も電球が切れなかったら二階に行くことなんてなかったわ。 三階の本屋ってすっごく品揃えがいいのよね」 だが花は花で、団子は団子。 一度神姫を買うと決めて以来、今日この日曜日に至るまでどの型を選ぶかで頭がいっぱいで、桜が丁度見頃になっていたなんて気付きもしなかった。 どの神姫を購入するかはまだ決めていない。 徹夜でネットを徘徊してはみたものの、あまりに種類が多すぎて目移りするばかりだった。 それに俺はてっきり “武装神姫” を扱っているのはコナミ一社だとばかり思っていたのだが、実際は数々の会社がそれぞれ特色を持った神姫を売り出しているらしく、それもまた混乱に拍車をかける要因となった。 結局のところ、店で現物を見て選ぶのが一番ということのようだ。 一応候補を挙げるならばやはり、姫乃が持つ Front Line 製悪魔型ストラーフに対抗して、同社の天使型アーンヴァルだろうか。 公式サイトで画像を見る限り、白を基調とした落ち着いた雰囲気のボディにサラサラの金髪ストレートで、ストラーフよりも幾分優しい顔をしていた。 ニーキにギャフン! と言わせるためとはいえあからさまに対抗する形となるが、性格はパッと見大人しそうで手がかからなさそうだし、なかなか悪くない選択だと思う。 それに、悪魔をボコボコにするのは天使の役目と相場が決まっている。 「姫乃ってストラーフ型に手ぇ振ってもらったからニーキ買ったんだよな。 そのストラーフが売り子やってんの?」 「他にもいろんな神姫がいたわよ。 自分と同じ型を買ってもらおうって、みんな頑張ってたわ」 何より忘れてはならないのは、俺が神姫を買うことに抵抗があっても一緒に買いに行くことで同意してくれた姫乃の意見だ。 俺が選んだ神姫の種類に文句を言う姫乃ではない(と思う)が、彼氏たるもの、彼女の意見は極力尊重するつもりだ。 ……将来尻に敷かれそうだなあ、なんて思ったりもする。 ちなみにニーキは当然留守番だ。 店に神姫を連れ込んだら問答無用で万引き犯扱いされてしまう。 神姫と一緒に買物を楽しみたいオーナーもいるだろうに、純真無垢な神姫に万引きの手口を教え込む輩が後を絶たないのだ。 迷惑極まりない話だが、俺としてもニーキにデートの邪魔をされたくない。 購入予算は……まぁ、一括ニコニコ現金払いで神姫一体ギリギリ買えるだけ預金口座から下ろしてきたものの、型式によっては若干オーバーしたりもする。 そのへんの兼ね合いも考えて、良い神姫に出会えたならば重畳だ。 一階からエスカレーターに乗ると、上から特売商品を売ろうと客引きする声――では断じて無い、怒号に近い声が聞こえてきた。 「武装神姫コーナーは只今大変危険となっております!! 近づかないようお願いしまーす!! えー武装神姫コーナーは大変危険と――!!」 《私たちは要求する!! 神姫の労働条件改善を!! 神姫の正当な権利保証を!!》 玩具コーナーの一角、神姫特設スペースは混沌の様相を呈していた。 遠巻きに取り囲む客を近づけまいと警備員が警戒し、その輪の中で店員と神姫達が何やら言い争っていた。 というより、拡声器を使って叫ぶ神姫に店員が一方的に捲くし立てられている。 至近距離で拡声器から放たれる神姫の叫び声に耳を塞ぐしかないようだ。 ピラミッド状に山積みされた武装神姫の箱の上に見栄え良く武装された色とりどりの神姫達は、頂上で拡声器に向かって魂の叫びを上げるアーンヴァルを守るように仁王立ちし、下の方では何故か数体の神姫達が戦っていた。 店員はなんとかそれを止めようと接近を試みるが、 「いつでも発射できるぞ」 と言わんばかりに戦闘態勢をとっている神姫達に近づけないでいる。 神姫達の表情はどれも命を賭して戦う者のそれだ。 今日は販促イベントの日なのか? 世界征服を目論むアーンヴァルを倒すヒーローショー的なあれか? 「ここでヒーローの名前を叫んだら五色揃った五体の神姫が駆けつけてくるのかね?」 「叫んでもいいけど、その時はいくら弧域くんでも他人のふりをするからね。 今はあの神姫達に冗談は通じないと思うわよ」 「だよな、人形とは思えないくらい殺気立ってるし。 春だから春闘のまねごとってわけか」 基本的に人間に従順な神姫が反乱を起こすくらいだからよほどの悪条件で働かされているのだろうけれど、雇用主に訴えるならばせめて営業時間外にやってほしい。 拡声器といい、ピラミッドフォーメーションといい、事前に計画していて事を起こしたようだ。 だが日曜日を狙って店を困らせるとは浅はかなり。 一杯食わせたい気持ちは分からなくもないが、そんな方法で要求を飲ませるのは “駄々っ子” でしかない。 警備員が強攻策に出さえすればそれでお終いだろう。 「ま、客が心配することでもないか。 仕方ない、神姫はまた今度にして今日は花見するか」 姫乃が何気なく目線を下げ、 「そうね、野次馬になるのも迷惑になきゃっ!?」 その先に何か黒光りするものが飛び込んできた。 「ひめ――」 手を伸ばしたが遅かった。 姫乃はツルツルに磨かれた床でスニーカーを滑らせ、盛大にロングスカートを広げて 「白!」 尻餅をついた。 「なんで叫ぶのよ!?」 強かに尻を打ち付けた痛みと絶対領域を全開放した羞恥のダブルパンチで顔をボッ! と赤くした姫乃は尻餅の体勢のままスカートの前後を押さえた。 その一瞬だけ目に写った影と白のコントラストは、しかし一瞬だからこそ鮮烈に記憶に焼き付き、普段は野暮ったく見えるロングスカートの中にどれほどの夢が詰まっているかを垣間見るに十分であった。 もう何度想像したか分からないその禁断の領域を垣間見た俺はその瞬間を “名画” のようだと思った。 ほんの一瞬という人間の認識では連続で有り得ないその止まった時の中に輝く “白” は一瞬だからこそ無限の想像を溢れさせ、いや、その想像はある方向にのみ断固として無限ではない。 人の憂慮すべき探究心は時にその禁断のカーテンの向こうへと飛翔する。 嗜みある紳士ならば、この先俺が何を主張したいのか察してもらえることだろう。 ……さて、どうやって怒られる前に機嫌を取ろうか、と助け起こすのも忘れて熟考に入ろうとしたところで、姫乃に尻餅をつかせた黒光りする物体が 「いった~!」 と声を上げた。 もちろんそれは “G” ではない。 先日俺の眉間に穴を空けてくれた忌々しいツインテール。 それと同型のストラーフは、起き上がりつつ姫乃のほうに顔を向けて 「すみません、お客さ……あ、お姉さんは確かあの時の!」 と甲高い声を上げた。 「え? あ、あの時のストラーフさん?」 そのストラーフは姫乃がニーキと出会うきっかけとなった神姫だった。 素体はニーキと変わらず黒を基調としたもので、大きく違う点は、その神姫はゴツい武装に包まれていた。 足は膝から下が長く機械的な見た目に変わっており、脚力を上昇させるパーツのようだが、単純な機動力強化でないことは足先に取り付けられた短剣から容易に想像がつく。 神姫の身体と不釣合いに大きいそのレッグパーツとのバランスを取るように、背中にシールド付きの無骨な肩が取り付けられており、そこから機関銃の銃身のような異様に長い腕が伸びている。 肩のシールドにはさらに細身の剣が上に伸びるように取り付けられており、実用的ではなさそうだが、ストラーフのシルエットがより悪魔に近いものになっている。 腕の先についた神姫の頭ほどもある手の五本の爪は相手を引き裂くのか、それとも巨大な武装を振り回すのだろうが――このストラーフは両方の腕に二体の神姫を抱えていた。 一体は腕と脚が白く所々青いペイントが入っていて、腰の辺りまで伸びた癖のある豊かな金髪と相まって上品な印象がある。 もう一体は黒に赤と真逆のカラーリングで、紫のショートカットと左右二箇所でまとめたお団子が子供っぽい。 二体とも色と髪型を除けば同じ装飾がなされていて、目を閉じた顔は姉妹のようによく似ている。 この二体は確か、どこのブランドだったかは忘れたが、一ヶ月くらい前に発売された―― 「お姉さんゴメン! 悪いけどこの二人、ちょっと預かっててよ!」 「ふぇ? なに?」 あっけにとられて立ち上がれない姫乃のスニーカーにストラーフはその二体を横たわらせた。 動けばその二体がコテンと倒れてしまうため、身動きがとれなくなった姫乃は顔だけをあたふたさせる、なんて器用な真似をしてみせた。 「ちょ、ちょっとどうすればいいの? 弧域くん?」 「いや、俺に聞かれても」 「君、お姉さんの彼氏? 説明してる暇はないんだ。 悪いけどその二人を守ってあげて――よっと!!」 一瞬だった。 戦国時代風の鎧に身を包んだ神姫がストラーフの元にいつの間にか飛び込んでいて刀を振り下ろし、ストラーフはそれを片方の剛腕で防ぐと同時にもう片方の腕で武士型の神姫を殴り飛ばした。 突然だったとはいえ、それはギリギリ目で追える程の攻防だった。 ハナコの異様なまでに綺麗な字といい、今の目の前の交錯といい、神姫の能力の高さには舌を巻くばかりだ。 今の一瞬だけで思わず手に力が入ってしまった。 姫乃は手品でも見せられたかのように吹き飛んだ武士とストラーフを交互に見て一人状況から置いていかれていた。 まあ、俺も神姫の動きが見えただけで何がなんだか分からないのだが。 軽く1mは吹き飛んだ武士がふらつきながらも刀を杖にして立ち上がり、その隣に今度は西洋風の鎧を見に纏った神姫が並んだ。 二体とも、遠くから分かるほど、顔が濃い…… 「レミリア、あくまでその二人を渡さないつもりか!」 「当然。 エルもメルもまだまだ将来が楽しみな神姫なんだ。 あんた達みたいにやさぐれて育っちゃ、先輩神姫の名折れだからね。 それに――」 レミリアと呼ばれたストラーフはププゥ! と噴出し、 「 “あくまでその二人を” ってダジャレ? そりゃあそうだよ。 だって私、悪魔だもん」 全力で悪魔らしく、嘲笑った。 「貴様武士を愚弄するかあああああ!! 『魔剣・烈風斬!!』」 「後悔しても遅いぞ! 『エクスカリバー!!』」 「ハンッ! そうよアンタ達みたいな雑魚は二人まとめてかかってきなさい! 『デーモンロードクレイドル!!』」 三人の衝突によって、一瞬、僅かだが、空気が震えた! 冗談だろ!? たかが15cm程度の人形がここまで激しく動けるのかよ! 二人の剣士が渾身の力で放った斬撃をレミリアが突進で蹴散らし、そこから先はもう俺の目にも止まらぬ攻撃の応酬になった。 間近で見る迫力なんてものじゃない。 とても玩具と呼べる代物じゃない。 ――――これが、神姫バトルなのか! 神姫の戦いに見惚れていると、 「弧域くん、この二人どうしよう」 と姫乃が眉を八の字にして俺を見上げていた。 スニーカーに身体を預けた二人の神姫に触れていいものか分からず、立ち上がれずにいるらしい。 残念なことにスカートはばっちり抑えている。 「預かるっていっても、あのお侍さんと鎧さんに襲われたら私はどうすればいいの……」 「いや、さすがに人間には攻撃してこないと思うけど」 眠っているのか電池切れなのか、ピクリともしない白と黒の神姫をとりあえず預かろうとした――その時。 「うぉおおう!?」 白いほうの神姫の目がくわっ! と見開かれ、文字通り飛び起きた。 「レミリア姉さん? レミリア姉さん!?」 「あー、お姉さんならあっちでほら、戦っ――ってちょっと待てオイ!」 俺が指を差した方向で、レミリアは武装の片腕を折られていて残った腕と膝を床につき、その目前に立つ二人の剣士は大上段に構えていた。 剣士二人とは格が違ったように思えた悪魔も、二対一のハンデを覆すまでには至らなかったようだ。 だからレミリアを姉と呼ぶ白い神姫が加勢に向かったのはあまりにも当然で正しすぎる行動だ。 だが、何の武装も無しに斬撃に飛び込むのは自殺行為でしかない! その神姫に気づいたレミリアが 「っ!? バカ来るなぁ!!」 叫んだがもう遅い! 剣を振り下ろした武士と騎士が 「なっ!? エル!?」 気づいたがもう止まらない! 振り下ろされる凶刃に間一髪間に合った、間に合ってしまった神姫は金髪を靡かせ、両腕を広げて―――― 「っ痛ったぁ!?」 間一髪白い神姫と斬撃の間に手を滑り込ませて神姫を掴んだまではよかったが、手を引っ込めるのは間に合わなかった。 玩具でありペーパーナイフ程度の切れ味しかないはずの二振りの剣は見事、俺の右手の甲に二本の切り傷を作ってみせた。 「くそっ、マジで切れやがった! おもちゃってレベルじゃねぇぞ!」 手に走った二本の赤い線からじわぁっと血が滲み出てきた。 その血に合わせるように、痛みもじわじわと手全体に広がっていった。 ニーキといいこいつらといい、俺は神姫に怪我させられる運命なのか!? いや、手を出したのは俺だけれども!! ニーキは姫乃に手を出そうとした俺を邪魔しやがったけれども!! ああもうホントに痛い! これ絶対風呂でしみるぞ! 「きゃあああ!? 弧域くん血出てる、血!!」 「……そ、そんな……私の剣が、お、お客様、を……」 「さんざんお客さんや店に迷惑かけた奴のセリフじゃないね。 暫く頭を冷やしな」 失意の内に刀を落とした武士の頭頂にレミリアの踵落としが決まり、武士はその場に崩れ落ちるように膝を折った。 「き、貴様よくも私の剣を汚しギハッ!?」 「自分の剣に責任も持てないなんて、仮にも同じ剣士なのに恥ずかしいよ、まったく」 いつの間にか目を覚ましていたらしい黒い神姫は携帯電話 (同型同色の携帯をとても身近な人が持っていた気がする) を振り下ろした格好で武士と仲良く並んで倒れた騎士を見おろして、というより侮蔑をたっぷりと込めて見くだしていた。 携帯電話 (あの十字架のストラップにも見覚えがある) を放り出した黒い神姫はレミリアに駆け寄るなり 「レミ姉腕! 腕が!」 と騒ぎ出した。 「オプションパーツだからいくらでも替えが効くって。 だーいじょうぶ大丈夫」 「あんなゴッツイ腕が折れるくらい激しく戦ったんでしょ! お願いだからレミ姉、ボク達なんかさっさと見捨てて、危ないことしないでよぉ……」 「にゃははは! カワイイ妹達を見捨てる姉なんていないって!」 残ったほうの手で黒い神姫の頭をグリグリとなでて、仲睦まじくじゃれ合う二人。 もう一人の白い神姫は―― 「(じーっ)」 俺の手の中に収まったまま、こちらを凝視していた。 眉間の穴が再び開きそうなほど凝視されていた。 「(じーっ)」 「ああ、悪い。 咄嗟だったもんで、掴んで振り回しちゃったな。 怪我はないと思うけど酔ったりしてないか? っつーか神姫って乗り物酔いとかするのか?」 「(じーっ)」 「どうしたんだ? また俺の眉間に風穴でも空いてるのか?」 「(じーっ)」 「おーい、神姫さんやーい」 「じーっ」 「いや、口で擬音を出すなよ」 「……………………(ぽっ)」 「何故そこで赤くなる!?」 白い神姫からの突き刺すような視線は、下ろしてやった後も暫く続いた。 NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~3/4』 15cm程度の死闘トップへ